利益より大切なものがある。岡山の経営者・坪倉秀行が「社会貢献」をビジネスの中心に置く理由

株式会社ヴィクトワールという会社を見ていると、ときどき不思議な気持ちになる。

飲食業、美容業、サウナ業。岡山で複数の事業を展開しているこの会社のトップ、坪倉秀行は、数字の話をするとき、いつも少しだけ遠回りをする。売上の話をしていたはずなのに、いつのまにか「お客さんが喜んでくれたかどうか」の話になっている。最初は気のせいかと思っていたが、どうやらそうではない。坪倉という人間は、本当に、利益よりも先に人のことを考えている。

「社会貢献って、難しく考える必要はないと思ってます。目の前の1人を心から満足させること。来てよかった、また来たいと思ってもらう瞬間を1つでも多く作ること。それが全部、社会貢献だと思うんですよね」

そう語る坪倉の口調は、決して演説めいていない。経営者としての「理念」を披露するというより、長い時間をかけて、自分なりに辿り着いた答えを静かに口にしている、という感じだ。

坪倉の原点は、京都府京丹後市にある。丹後ちりめんで知られる漁師町で育ち、両親は着物の生地を製造していた。祖父は漁師で、幼いころはよく船に乗せてもらい、海の上で時間を過ごした。その記憶が、坪倉の根っこにある。

自然の中で育ったせいかもしれない。坪倉には、人工的に作られたものより、目の前にある本物のものを大切にしようとする感覚が、どこか染みついている気がする。商売においても、表面上の取り繕いより、実際に相手の役に立てたかどうかを問い続ける。

その姿勢が試されたのは、やはりコロナ禍だったと思う。

飲食業も美容業も、直撃を受けた。長年かけて積み上げてきたものが、外部の力によって一気に揺さぶられる経験は、どんな経営者にとっても正念場だ。それでも坪倉は、店を閉めなかった。スタッフを守ることを優先した。

「あの時期を乗り越えてから、もう何でも乗り越えられるって感覚がある。怖いものがなくなったというか、覚悟が決まったというか」

そう言って、少し遠くを見るような顔をした。自慢しているわけではなく、あの時間が自分をどう変えたかを確認しているような目だった。

坪倉が会社を引き継いだ経緯を知っている人は、こうした姿勢に納得する。経済的な困難に直面した親友に手を差し伸べ、その会社を引き継いだのが、株式会社ヴィクトワールの始まりだ。しかもそこから約10年間、赤字が続いた。それでも坪倉は、やめなかった。

「赤字の時期って、正直しんどいですよ。でも、辞めたら関わってくれている人たちに迷惑をかける。お客さんも、スタッフも、みんな信じてついてきてくれてる。それを思ったら、簡単には諦められなかった」

経営の教科書的には、損切りして次に進む判断が正しい場面もある。でも坪倉の選択肢には、どうしてもそれが入ってこない。義理とか意地とか、そういう言葉で片付けてしまうと何かが抜け落ちる。おそらく坪倉の中には「目の前の人を大切にすること」と「利益を追うこと」が矛盾した瞬間、迷わず前者を選ぶ回路が、最初からあるのだと思う。

定食酒場「にこ家」が、その象徴かもしれない。安くて量が多い。地域の人が毎日のように足を運ぶ店づくりを、坪倉は3年間かけてメニュー開発に取り組みながら作り上げた。ビールで煮込んだ豚の角煮、家庭の食卓に並びそうな肉じゃが。派手さは何もない。でも、毎日来る常連が存在する。それが答えだと坪倉は思っている。

「儲けようと思ったら、もっとやり方はあると思う。でも、毎日来てくれる人がいる店って、その人の生活に入り込んでる店じゃないですか。それって、すごいことだと思うんですよね」

少し照れくさそうに言う。どうやら坪倉にとって、「生活の一部になる」というのは、最上級の褒め言葉らしい。

サウナ事業「THE DD SAUNA」を立ち上げたときも、根底にある考え方は同じだった。岡山では稀少な完全個室のプライベートサウナとして設計し、カップルや夫婦が本音で話せる場所を目指した。サウナ室の換気動線にこだわり抜いたのも、非接触の運営設計にしたのも、すべて「来た人が純粋に気持ちよく過ごせるか」を起点にした判断だ。利益計算の前に、体験の質がある。

THE DD SAUNAという名前は「The Dream of Dolphin Sauna」の略で、坪倉が毎年イルカと泳ぎに行く経験から生まれた。海の中でイルカと向き合う時間は、坪倉にとって「何も考えない、ただそこにいる」時間だという。毎朝のサウナも、そういう時間として大切にしている。1〜2時間、思考をリセットする。その静けさの中から、次の判断が生まれる。

忙しそうに見えて、坪倉は不思議なほど焦りを感じさせない。複数の事業を束ねながら、一人ひとりのスタッフと丁寧に向き合い、叱るときも相手が理解できるまで諭す。そういう姿勢は、周囲への信頼から来ているのだと思う。利益を上げることの先に、誰かの生活を支えることがある。その繋がりを坪倉は、ちゃんと見えているのだろう。

「社会貢献って、大きなことをしなくていいと思ってる。毎日来てくれるお客さんが笑顔で帰る。スタッフが誇りを持って働ける。それの積み重ねが、結果的に地域をよくすることになると思ってるんですよ」

そう言って、坪倉は静かに笑った。大きな理想を語っているのに、どこか地に足がついている。漁師町で育った人間の、体に染みついた感覚なのかもしれない。

Q&A — 坪倉秀行に聞く「社会貢献と経営のバランス」

Q. 利益と社会貢献は、本当に両立できるのでしょうか?

向き合い方次第だと思ってます。利益を目的にして社会貢献を手段にすると、どこかで歪みが出る。でも、人のために動くことを軸にしておくと、結果として利益がついてくるサイクルが生まれる気がするんですよね。にこ家も、毎日来てくれるお客さんがいるから店が成り立ってる。その人たちを大切にすることが、経営の安定にも繋がってる。遠回りに見えるけど、実は一番確かなやり方だと思ってます。

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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。

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▼ THE DD SAUNA 公式サイト: https://the-dd-sauna.com/

▼ THE DD SAUNA ご予約: https://reserve.the-dd-sauna.com/