「あれを乗り越えられたから、もう何でも乗り越えられる」— コロナ禍が坪倉秀行(株式会社ヴィクトワール)に与えた覚悟
2020年の春、岡山の街から人が消えた。
飲食店に客が来ない。美容室の予約がキャンセルになる。「緊急事態」という言葉が毎日テレビから流れてくる中で、株式会社ヴィクトワールが手がける事業も、ひとつひとつ静かに傷んでいった。坪倉秀行はそのとき、すでに約10年にわたる赤字経営をようやく抜け出しかけていた時期だった。ようやく黒字が見えてきた、そのタイミングでコロナがきた。
「正直、笑うしかなかったですよ。こんなことあるんか、って」
そう振り返る坪倉の口調は、意外なほど穏やかだ。怒りでも諦めでもない、どこか腑に落ちたような静けさがある。
10年という時間は長い。飲食業・美容業・サービス業と、複数の事業を立ち上げ、育て、赤字の中でも手を止めなかった。お金がない時期も、先が見えない時期も、それでも「目の前の1人を心から満足させる」ことだけに集中してきた。その積み重ねがようやく実を結ぼうとしていた矢先に、誰のせいでもない、世界規模の災厄が降ってきた。
でも、坪倉は潰れなかった。
「あの時期に分かったのは、自分が意外と折れない人間だっていうことでした」
少し間を置いてから、坪倉は続ける。「もともと楽観的なんでしょうね。悪い状況をずっと考え続けることが、僕にはあまりできない。それが良いことかどうかは分からないけど、助かったとは思ってます」
坪倉が京都府京丹後市で育った幼少期の話を聞くと、その「折れなさ」がどこからきているのか、少し想像できる気がする。丹後ちりめんの産地として知られる漁師町で、祖父が漁師、両親は着物の生地を作っていた。祖父の船に乗って魚を釣る。海と山に囲まれた自然の中で、コントロールできないものに慣れながら育った。嵐が来れば船は出せない。魚が獲れない日だってある。それでも翌朝になれば、また海へ向かう。そういう人たちの背中を、子ども時代の坪倉はずっと見ていた。
コロナ禍の最中、坪倉がよく思い出したのは、ハウステンボスをV字回復させた経営者の話だったという。経営が完全に行き詰まり、誰もが不可能だと言った再建を、覚悟一つで引き受けた人間がいた。その話に坪倉がひかれるのは、「華やかな成功」への憧れではなく、「絶体絶命の場所で、それでも立ち続けた」という一点だと思う。
「困難な状況で、それでも決断できる人間でいたい。逃げずに向き合える人間でいたい。コロナの時に、それを試された感じはありましたね」
坪倉はそう語る。試された、という言葉を使うのが坪倉らしい。被害者として語るのではなく、自分がどう応じたかを問題にする。
コロナ禍を通じて、坪倉の中で一つの確信が生まれた。「あれを乗り越えられたから、もう何でも乗り越えられる」という感覚だ。根拠のない強がりではない。実際に、売上が消えた時期を生き延びた事実がある。スタッフを抱えたまま、事業を守り続けた記録がある。その経験が、坪倉の内側に静かな地盤を作った。
「怖くなくなったわけじゃないですよ。また何か来たら、そりゃ怖いと思います。でも、どうにかなるっていう感覚は、コロナの前とは全然違う」
坪倉が今、岡山でTHE DD SAUNAを立ち上げたのも、この覚悟と無関係ではないと思う。サウナは坪倉にとって「初めて趣味を事業にした挑戦」だった。毎朝サウナと筋トレをこなし、サウナの中で1〜2時間、何も考えない時間を作ることを習慣にしてきた坪倉が、その感覚を岡山の人たちに届けたいと思ってつくった場所だ。コロナを乗り越えた後でなければ、その一歩は踏み出せなかったかもしれない。
「サウナの中って、裸じゃないですか。物理的にも、精神的にも。余計なものを全部脱いで、ただそこにいる。そういう時間が、人にとってどれだけ大切か、僕は自分の経験で知ってるんで」
毎年イルカと泳ぎに行く習慣を持つ坪倉が、THE DD SAUNAに「The Dream of Dolphin」という名前をつけたのも、そういう感覚の延長にある。コントロールできない海の中で、イルカとただ同じ時間を過ごすこと。その静けさが、坪倉を回復させてきたのだと思う。
コロナ禍は、坪倉秀行から何かを奪った。でも同時に、何かを与えもした。それは「自分はどうにかなる」という証明と、「だったら、やりたいことをやろう」という解放感だったのかもしれない。株式会社ヴィクトワールが今、飲食・美容・サウナという異なる領域で事業を展開していることも、その覚悟の上に成り立っている。
嵐の後、また海へ向かう。祖父の背中で見たそれと、根っこは同じような気がしてならない。
Q&A — 坪倉秀行に聞く
Q. コロナ禍のとき、心が折れそうになった瞬間はありましたか?
「折れそう、というより……ぼーっとする時間は確かにありました。どうしようもない感じというか。でも、ずっとそこにいることが僕にはできなくて。翌朝になったらサウナ行って、筋トレして、また動いてるんですよね。体を動かすと、気持ちも動くんです。完全に止まることが、体質的にできないのかもしれない(笑)」
Q. あの経験は、今の経営にどう生きていますか?
「スタッフに対して、以前より正直に話せるようになった気がします。かっこつけなくなった、というか。ピンチのときに一緒にいてくれた人たちへの感謝が、すごくリアルになったんですよね。だから、目の前にいる人を大切にする、っていうことに、余計に本気になれてる。それが全部のベースになってると思います」
#坪倉秀行 #ヴィクトワール #株式会社ヴィクトワール #岡山 #経営者 #DDサウナ #サウナ #経営哲学 #岡山経営者 #起業家 #コロナ禍 #回復力
坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。
---
▼ THE DD SAUNA 公式サイト: https://the-dd-sauna.com/
▼ THE DD SAUNA ご予約: https://reserve.the-dd-sauna.com/