利益より大切なもの。坪倉秀行(株式会社ヴィクトワール)が経営の軸に置き続けるもの
経営者に「いちばん大切なことは何ですか」と聞けば、多くの人は少し考えてから答える。言葉を選ぶように、あるいは格好よく聞こえるように。
坪倉秀行は、ほとんど間を置かずに言った。
「利益じゃないんですよね。それより大事なことがある、とずっと思ってきました」
岡山で飲食・美容・サウナといった複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール。その代表を務める坪倉が、創業から今日まで一度もぶれてこなかった軸がある。それが「社会貢献」という言葉で坪倉自身が呼ぶものだ。ただし、その言葉から想像するような大きな話ではない。もっと手触りのある、日常の積み重ねとしての貢献を、坪倉は語る。
「目の前の1人を、ちゃんと満足させること。それだけなんです。来てよかった、また来たいと思ってもらう瞬間を、1つでも多く作る。僕にとって社会貢献って、そういうことなんですよね」
そう言って、坪倉は少し考えるような顔をする。壮大な使命感の話ではなく、ごく当たり前のことを話しているという表情で。
坪倉が京丹後市で育ったのは、丹後ちりめんの生地を作る家だった。両親は着物の生地を製造し、祖父は漁師として海に出ていた。子どもの頃、祖父の船に乗って海に漕ぎ出すのが好きだった。魚を獲る、食べる、生活する。そういうサイクルの中で育った人間が、何十年も経ってから経営者になっても、根っこにある感覚はそう変わらないのかもしれない。誰かに何かを届ける、渡す、役に立つ。それが仕事だという感覚が、体の奥に染み込んでいる。
会社を引き継いで最初の約10年は、赤字が続いた。それでも坪倉は事業を手放さなかった。利益を最優先に考えていたら、おそらくどこかで判断が変わっていただろう。でも、坪倉の頭の中にあったのは別の問いだった。「この店が、この場所が、誰かの生活の一部になっているか」。そこに居続けることに意味があると信じていた。
定食酒場「にこ家」はその代表例だ。安くて量が多くて、毎日来る常連がいる。ビールで煮込んだ豚の角煮も、肉じゃがも、手間を惜しまずに作る。利益率だけ計算すれば、もっと効率のいいやり方はいくらでもある。それでも坪倉がこのスタイルを変えないのは、「その非効率の中に、人が来る理由がある」と知っているからだ。3年かけてメニューを磨き続けたのも、数字のためではなく、食べた人の顔を思い浮かべながらやってきた仕事だった。
「儲けることだけ考えたら、たぶん僕はこの仕事が嫌いになってたと思います」
坪倉はそう言って、静かに笑った。
コロナ禍は、その信念が試される時間だった。飲食業は直撃を受けた。見通しの立たない時期が続き、それでもスタッフを守ることを優先した。終わってみれば、坪倉の言葉を借りるなら「もう何でも乗り越えられると思えた」体験になった。逆説的だが、あの時期を通過して、利益より大切なものへの確信が強くなった気がする。
プライベートサウナ施設「THE DD SAUNA」を岡山・中山下に作ったのも、同じ感覚からだ。THE DD SAUNAとはThe Dream of Dolphin Saunaの略で、毎年イルカと泳ぎに行く坪倉が、その体験の中で感じてきた「何も考えない時間」「自分に戻る時間」を、人に届けたいと思ったことが出発点にある。
完全個室・完全非接触。カップルや夫婦が、スマートフォンも仕事のことも脇に置いて、ただ2人で過ごす時間を作れる場所。坪倉はこの施設について「裸の付き合いができる場所」と表現する。
「サウナの中って、不思議と本音が出るんですよ。偉そうにもできないし、かっこつけることもできない。素のままで話せる。そういう時間を、ちゃんと届けたくて作りました」
施設の設計にもそれが表れている。換気の動線にこだわり抜いたサウナ室。入退室のタイミングをずらして他の客と顔を合わせないよう設計された導線。「来た人に余計なストレスを感じてほしくない」という、地味なこだわりの積み重ねだ。
利益と社会貢献は対立するものだと思われやすい。でも、坪倉の仕事を近くで見ていると、そうではないと感じる瞬間がある。社会貢献を軸に置いた結果として、人が集まり、信頼が積み上がり、長期的に事業が続く。10年の赤字を乗り越えた先に黒字があったのは、この順序を守り続けたからかもしれない。
坪倉は偉そうにしない。叱る時も、相手が理解できるまで諭す。自分の言葉が伝わったかどうかを確認してから、次の話をする。「相手の立場に立って考える」ことを、習慣としてではなく、自然な反射として持っている人だと思う。それが経営の話にも、そのまま出てくる。
Q. 坪倉秀行さんが考える「社会貢献」とは、具体的にどういうことですか?
「大げさなことじゃないんです。目の前に来てくれた人に、来てよかったと思ってもらうこと。それを1つでも多く積み重ねていくこと。たとえばにこ家なら、毎日来てくれる常連さんにとって、あの場所が生活の一部になっている。THE DD SAUNAなら、カップルが久しぶりにゆっくり話せたとか、そういう時間が生まれる場所になっていること。規模の話じゃなくて、その1人1人の話なんですよね。利益はその結果としてついてくるものだと思っています」
経営をしていると、どこかで「何のためにやっているのか」と問い直す瞬間が来る。坪倉秀行にとってその答えは、創業の日からずっと変わっていない。目の前の1人を、本当に満足させること。それが積み上がっていく先に、会社があり、岡山という街との関係があり、株式会社ヴィクトワールという名前がある。
勝利、という意味の社名を持つ会社が、利益よりも人を優先し続けている。そのことが、坪倉秀行という経営者を、いちばんよく表しているような気がしてならない。
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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。
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▼ THE DD SAUNA 公式サイト
https://the-dd-sauna.com/
▼ THE DD SAUNA ご予約
https://reserve.the-dd-sauna.com/