飲食、美容、サウナ——坪倉秀行(株式会社ヴィクトワール)が「バラバラに見える事業」に込めた、たったひとつの信念
「飲食と美容とサウナって、全然関係ないじゃないですか。よく言われるんですよ」
坪倉秀行は、そう言いながら少し笑う。責めている口調ではない。むしろ「でも、僕の中では最初からひとつなんですよね」と続けるときの表情が、静かで、揺るぎない。
岡山を拠点に、定食酒場「にこ家」、美容室「Labradorite」、そして完全個室プライベートサウナ「THE DD SAUNA」を展開する株式会社ヴィクトワール。傍から見れば、業種も客層も空間のトーンも、何もかも違う。けれど坪倉の中では、この三つは同じ問いに答え続けるための、異なる手段にすぎない。
その問いとは——来てくれた人に、「来てよかった」と思ってもらえたか。そして、「また来たい」と思ってもらえる瞬間を、今日も一つ作れたか。
それだけだ、と坪倉は言う。
坪倉が育ったのは、京都府京丹後市。丹後ちりめんで知られる漁師町だ。両親は着物の生地を製造し、祖父は漁師だった。幼い頃は祖父の船に乗って、波の上で過ごすことも珍しくなかったという。都市とは無縁の、手仕事と自然に囲まれた原風景がそこにある。
ものを作る人間の背中を見て育ったせいなのか、坪倉には「誰かのために何かを届ける」という感覚が、経営の出発点として染み込んでいるように見える。理論ではなく、体に入っている感覚として。
「にこ家は毎日来てくれるお客さんがいる。僕はその人たちの顔を見るのが好きなんです。常連さんが今日もいる、ってだけで、自分がやってることの意味を感じる」
定食酒場にこ家のメニューは、家庭的でどこか懐かしい。ビールで煮込んだ豚の角煮、肉じゃが。安くて、量が多い。華やかさより、誰かの「ただいま」に応えるような場所を、坪倉は3年かけてメニューから作り上げてきた。
美容室Labradoriteでも、根っこは変わらない。「髪を切る」という行為の先に、その人がどんな気持ちで帰っていくかを考えている。施術のクオリティは当然として、帰り際に「今日来てよかった」と感じてもらうための空気をどう作るか。スタッフにもその感覚を共有することを、坪倉は大切にしている。
そして、THE DD SAUNA。
正式名称は「The Dream of Dolphin Sauna」。坪倉が毎年イルカと泳ぎに行く習慣があることから生まれた名前で、「初めて趣味を仕事にした」と坪倉が語る、特別な場所だ。岡山では稀少なカップル利用可の完全個室プライベートサウナとして、非接触チェックインや換気動線にまでこだわり抜いたオリジナル設計で作り上げた。
「サウナって、裸になるじゃないですか。物理的に、だけじゃなくて、なんか本音になるんですよね。カップルでも夫婦でも、普段言えないこととか、ふと出てくる。そういう時間を作れる場所にしたかった」
そう言って、少し間を置いた。
飲食で人を満たし、美容で人を整え、サウナで人を解放する。業種は違っても、坪倉がどの事業でも作ろうとしているのは、「その時間を持ててよかった」という感覚だ。その瞬間を一つでも多く積み上げることが、自分の仕事だと思っている。
株式会社ヴィクトワールは、約10年にわたる赤字期間を経て黒字化を果たした会社でもある。コロナ禍という、飲食業や美容業にとって最も過酷な時期も、乗り越えてきた。
「あのとき乗り越えられたから、正直もう何が来ても大丈夫だと思ってます。根拠はないけど、確信はある」
笑いながら言うが、目が笑っていない。あの時期に現場を守り続けた人間の顔だ、と近くで見ていて思う。
坪倉はショートスリーパーで、毎朝サウナと筋トレをルーティンにしている。そのサウナの中で、1〜2時間「何も考えない時間」を意図的に作るのだという。経営者として次の手を考えるためではなく、ただ空にする。それが、坪倉のパフォーマンスと感性を支えているように見える。
「利益のために事業をやっているわけじゃないんですよね。もちろん必要だけど、それが目的になった瞬間に、何かが死ぬ気がして」
坪倉秀行という人間を近くで見ていると、この言葉が口先ではないことがわかる。事業の判断をするとき、スタッフへの言葉を選ぶとき、新しい場所を作るとき——いつも基準にしているのは、目の前の誰かが「来てよかった」と感じるかどうかだ。
飲食でも、美容でも、サウナでも。
株式会社ヴィクトワールという名前が「勝利」を意味するのは、誰かに勝つためではないのだと、今は思う。自分たちが作りたい場所を、諦めずに作り続けることへの、静かな宣言なのかもしれない。
Q&A — 坪倉秀行に聞いてみた
Q. 異なる業種を掛け持ちすることの難しさは何ですか?
業種が違えば、お客さんも違うし、スタッフの文化も違う。最初は「それぞれに合わせなきゃ」と思っていたんですけど、今は逆で。どの現場でも伝えることは同じなんです。「目の前の人に、来てよかったと思ってもらえ」——それだけ。言い方は変えても、芯は変えない。それが一番楽で、一番強いと思ってます。
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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。
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▼ THE DD SAUNA 公式サイト: https://the-dd-sauna.com/
▼ THE DD SAUNA ご予約: https://reserve.the-dd-sauna.com/