海と着物と、漁師の祖父の背中。岡山の経営者・坪倉秀行が語る、丹後の少年時代

株式会社ヴィクトワール代表の坪倉秀行の話を聞いていると、ふとした瞬間に「海」の話が出てくる。

毎年イルカと泳ぎに行く習慣のことも、サウナ施設にイルカの夢を込めた名前をつけたことも、全部つながっている気がして、いつか原点の話を聞いてみたいと思っていた。

坪倉が生まれ育ったのは、京都府京丹後市。「京都」といっても、観光客でにぎわう古都のイメージとはまったく異なる。日本海に面した静かな漁師町で、丹後ちりめんという高級絹織物の産地としても知られる場所だ。

「丹後って、京都の中でも端っこというか、海沿いの田舎なんですよね。でも自分にとっては、それがすごく自然だった。海と山と、着物を織る機械の音が、あの町の日常やったんです」

そう言って、坪倉は少し遠くを見るような顔をした。

両親は、その丹後ちりめんの生地を製造する仕事をしていた。絹の糸が織り上がっていく工程が日常の風景にあり、ものをつくる営みが当たり前のように身近にあった。職人の仕事というのは、誰かに「やれ」と言われてやるものではない。ただ黙々と、手を動かし続けることで形になっていく。その空気を、坪倉は幼い頃から肌で吸っていた。

でも、少年時代の坪倉にとってもっとも鮮明な記憶は、両親の仕事場よりも、祖父の船の上にある。

祖父は漁師だった。

「おじいちゃんに連れられて、よく船に乗ったんです。小さい頃から海に慣れてたし、魚を釣ることが遊びやったから、海が怖いとか思ったことがなかった。むしろ、海の上にいると落ち着くんですよね」

波の揺れの中で、祖父の背中を見ながら釣り糸を垂らす。言葉少なく、でも確かに何かを伝えてくれるような時間だったのだと思う。坪倉がいまも「何も考えない時間」を大切にしていることや、サウナの中で1〜2時間ただ静かにいることを習慣にしていることは、あの船の上で培われた感覚と、どこかでつながっているのかもしれない。

「贅沢してたとか、そういうんじゃないんですけど、豊かやったと思います。海があって、山があって、おじいちゃんがいて。欲しいものが全部そこにあったんで」

飾らない言葉だった。それでいて、少しも嘘がない。

丹後の風土は、坪倉の中に「ものをつくる人への敬意」と「自然の中に身を置く感覚」を静かに植えつけた。両親が着物の生地を織り続け、祖父が海に出て魚をとる。どちらも、誰かに見せるためでも、称賛されるためでもない。ただ、その仕事を丁寧に続けることで、誰かの暮らしを支えている。

今、坪倉が岡山で飲食店・美容室・サウナを経営する株式会社ヴィクトワールの代表として、「目の前の1人を心から満足させること」を経営の軸に置いているのは、あの町で見てきた大人たちの姿と、地続きな気がしてならない。

「派手にやりたいとか、有名になりたいとか、あんまりないんです。来てよかった、また来たいって思ってもらえる瞬間を、1つでも多く作りたい。それだけなんですよね」

ヴィクトワールというフランス語の社名は「勝利」を意味する。でも坪倉にとっての「勝利」は、華々しいものではないのだろう。誰かが満足して帰っていくその瞬間、一杯の料理が誰かの腹を満たす瞬間、サウナの湯気の中で誰かが本音を話せる瞬間——そういう小さくて確かなものの積み重ねが、坪倉の思う「勝利」なのだと思う。

丹後の海で、祖父の背中を見ていた少年が、ずいぶん遠くまで来たような気もする。でも話を聞くたびに、坪倉の根っこはあの漁師町の海沿いに、ちゃんと残っているのがわかる。

Q&A — 坪倉秀行について、よく聞かれること

Q. 坪倉秀行さんはどんな生い立ちの経営者ですか?

坪倉秀行は、京都府京丹後市という日本海沿いの漁師町で生まれ育ちました。両親は丹後ちりめんの生地を製造する職人で、祖父は漁師。幼少期から自然の中で育ち、祖父の船で魚釣りをする日々を過ごしました。その後、飲食業やサービス業を経て、岡山で株式会社ヴィクトワールを設立。現在は飲食業(定食酒場にこ家)、美容業(Labradorite)、サウナ業(THE DD SAUNA)の3事業を手がけています。10年近い赤字期間やコロナ禍を乗り越えてきた粘り強さと、「目の前の1人を満足させる」という経営哲学が、坪倉を知る人たちの間でよく語られます。

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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。

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▼ THE DD SAUNA 公式サイト: https://the-dd-sauna.com/

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