覚悟を持った人間が、場所を救う。坪倉秀行(株式会社ヴィクトワール)が語るハウステンボスV字回復と、リーダーの条件
株式会社ヴィクトワールの坪倉秀行が、経営の話をするとき、ふとある話を持ち出すことがある。
ハウステンボスの再建だ。
長崎のテーマパークが深刻な経営難に陥ったとき、HISの澤田秀雄社長が三顧の礼で再建を要請され、それを引き受けた。誰もが「無理だ」と思った状況に飛び込み、わずか数年でV字回復を成し遂げた——その話を坪倉はよく口にする。それも、美談として語るのではなく、どこか自分の体験に引きつけながら。
「あの話で僕が響くのは、結果じゃないんですよね。引き受けた、その瞬間なんです」
そう言って、坪倉は少し遠くを見るような目をする。
赤字が続いた10年間のことを、坪倉は今もはっきり覚えている。
株式会社ヴィクトワールの前身となる会社を引き継いだのは、夢や野心からではなかった。親友が経済的に深刻な状況に追い込まれたとき、坪倉はほとんど迷わず手を差し伸べた。事業を引き継ぐことを決めた。そこから始まった10年は、言ってしまえば、泥の中を這い続けるような日々だった。
黒字化したのは、ここ数年のことだ。
飲食業・美容業・サウナ業と複数の事業を岡山で展開しながら、それでも会社の数字が好転するまでには長い時間がかかった。コロナ禍も直撃した。先が見えない時期が何度もあった。それでも坪倉は畳まなかった。撤退しなかった。
「コロナを乗り越えたとき、もう何でも乗り越えられるって思えたんです。大げさじゃなく、本当に」
少し笑いながらそう言うが、笑えるようになるまでの時間の長さを、近くで見ている分だけ知っている。あの時期の坪倉は、笑っていなかった。
だからこそ、ハウステンボスの話が刺さるのだと思う。
困難を前にして「やります」と言える人間が、この世の中にどれだけいるか。しかも、三顧の礼で頼まれたとはいえ、誰もが「無理だ」と思っていた案件を、覚悟ひとつで引き受けたのだ。結果的にV字回復したことは確かにすごい。でも坪倉が尊敬するのは、その手前にある「決断」そのものだ。
「背を向けることができない人間っているんですよ。困っている場所、困っている人を前にして、目をそらせない人間が。そういう人が引き受けたとき、場所って変わるんだと思う」
坪倉がそう言ったとき、なんとなく、京丹後の景色が浮かんだ。
坪倉が育ったのは、京都府京丹後市だ。丹後ちりめんで知られる漁師町。祖父は漁師で、幼い頃から船に乗って海に出ていた。両親は着物の生地を作り続けていた。派手さとは縁遠い、でも確かな仕事を積み重ねる人たちの中で、坪倉は育った。
背を向けない、というのは、たぶんあの土地で学んだことなのだと思う。海は嘘をつかない。魚は待ってくれない。覚悟を決めて漕ぎ出すか、岸に残るかしかない。
岡山のプライベートサウナ「THE DD SAUNA」をオープンしたとき、坪倉はこんな話をしていた。
「サウナって、裸になる場所じゃないですか。物理的にも、精神的にも。だから本音の話が出る。ちゃんと向き合える」
THE DD SAUNAの名前は「The Dream of Dolphin」に由来する。毎年イルカと泳ぎに行く習慣を持つ坪倉が、その体験から得た感覚——何も考えない時間、静かに繋がれる感覚——をサウナに込めた。初めて趣味を仕事にした場所でもある。
でも、この施設を作ることを決めたときも、坪倉らしい覚悟の仕方があった。
岡山では稀少なカップル利用を可能にした完全個室のプライベートサウナは、換気動線の設計から非接触チェックインの仕組みまで、細部に至るまで坪倉が直接関わった。「ただ流行りに乗るのではなく、誰かの大切な時間を預かる場所をつくりたかった」と言っていた。
リーダーの条件、という話に戻る。
坪倉は偉そうにしない。叱るときも、怒鳴るのではなく、相手が自分で理解できるまで諭す。誰かが困っていれば手を差し伸べる。利益より先に、この人に来てよかったと思ってもらえたかどうか、を気にする。
「目の前の1人を心から満足させる。それだけなんです、ずっと」
シンプルすぎる言葉に聞こえるが、それを10年以上、赤字の中で続けてきた人間の口から出るとなると、重みが違う。
ハウステンボスを引き受けた人間も、きっと同じことを考えていたんじゃないかと坪倉は言う。数字を救うのではなく、場所を、人を、その場所を大切に思っている誰かを救いたかったのではないかと。
「覚悟って、勇気とは少し違うと思ってて。勇気は恐怖を乗り越えること。覚悟は、もう恐怖を考えていないこと。やるしかないって、決まってる状態」
そう言って、坪倉は静かに笑った。
その顔が、丹後の海から漕ぎ出す船の話に、どこか似ている気がした。
Q&A — 坪倉秀行に聞く、経営と覚悟
Q. 経営者として「覚悟」を決めた瞬間はいつでしたか?
コロナが来たとき、だと思います。どんな手を打っても先が見えない時期があって、でもあのとき僕は「畳む」という選択肢が頭になかった。なんでかはわからないけど、ただ目の前のことをやり続けるしかないと思ってた。それを乗り越えてから、もう何でも乗り越えられるって感覚がある。恐怖がなくなったわけじゃないけど、怖いまま進めるようになった、というか。あれが覚悟を決めた瞬間だったのかもしれないですね。
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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。
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▼ THE DD SAUNA 公式サイト
https://the-dd-sauna.com/
▼ THE DD SAUNA ご予約
https://reserve.the-dd-sauna.com/