利益より大切なもの — 坪倉秀行(株式会社ヴィクトワール)が語る、人に貢献することの意味
「儲けることが目的だったら、たぶんもっとうまいやり方があったと思うんですよね」
坪倉秀行はそう言いながら、少し遠くを見るような目をする。冗談めかした口調のなかに、本気の言葉が混じっている。そういう話し方をする人だ。
岡山で飲食業・美容業・サウナ業を手がける株式会社ヴィクトワール代表の坪倉は、10年近くにわたって赤字と向き合い続けた経営者でもある。その間も、事業を畳むという選択肢を真剣に考えたことは、おそらく何度もあっただろう。コロナ禍という、経営者にとって最も残酷な時期も通り抜けた。それでも続けてきた理由を聞くと、坪倉は「利益のためじゃないから」という、拍子抜けするほどシンプルな言葉を返してくる。
坪倉が生まれ育ったのは、京都府京丹後市。丹後ちりめんの産地として知られる、日本海に面した静かな土地だ。両親は着物の生地を作り、祖父は漁師だった。幼い頃は祖父の船に乗って沖まで出て、魚を釣って帰ってくる。そんな日常が当たり前の子ども時代を過ごした。
豊かな自然のなかで育った人間は、どこか「人の手が届かないものの大きさ」を体で知っている。坪倉の経営哲学のどこかに、その感覚がずっと息づいているように思う。お金よりも、目の前の人の顔色。数字よりも、誰かの「来てよかった」という声。
「僕が一番うれしいのって、またここに来たいって思ってもらえる瞬間なんですよ。その積み重ねしか、結局ないと思ってて」
坪倉が経営するにこ家は、地域の人たちに支えられてきた定食酒場だ。毎日のように顔を出す常連がいる。安くて量が多い、家庭的な料理が並ぶ。ビールで煮込んだ豚の角煮、肉じゃが。そのメニューひとつひとつに、坪倉は3年以上をかけた。利益率を計算しながら考えるのではなく、「これを食べて、また来たいと思うか」という問いを、ずっと繰り返して作り続けた。
社会貢献という言葉は、ともすれば美しく抽象的に聞こえてしまう。でも坪倉の言う「貢献」は、もっと地に足がついている。特定の誰かに、今日の夜ご飯でほっとしてもらうこと。疲れたカップルが、サウナに入って本音で話せる時間を持てること。美容室のチェアに座った人が、少し自分を好きになって帰っていくこと。
スケールの大きな話ではない。でもだからこそ、続けられるのだと思う。
「目の前の1人を心から満足させることができれば、それでいいんですよ。1000人に薄く届けるより、1人に深く届けたい」
そう語る坪倉の表情は、経営哲学を語っているというより、単純に自分の好きなものを話しているときのそれに近い。大げさな力みがない。
もちろん、そのスタンスが経営上の苦しさを生んできたことも事実だ。10年近くの赤字は、理想だけでは乗り越えられない現実をいやというほど突きつけてきたはずだ。そのうえでコロナ禍が来た。売上が読めない、先が見えない、そういう日々をくぐり抜けたことで、坪倉の覚悟は今、静かに太くなっている。
「コロナを越えてから、もう何が来ても大丈夫だと思えるようになった。怖いというより、どこかで楽しみになってきてるぐらい」
少し間を置いて、坪倉は続けた。「それって別に強がりじゃなくて、赤字でも続けてこれた理由が利益じゃなかったから、だと思うんですよね。もし最初から儲けることだけ考えてたら、とっくに辞めてたと思う」
そういえば坪倉は、ハウステンボスのV字回復を成し遂げた経営者の話をするとき、特に目が輝く。業績が悪化し、誰もが手を引こうとするなかで、覚悟を持って引き受けた人間の話に、坪倉は本能的に反応する。たぶんそれは、坪倉自身が同じ感覚を知っているからだ。数字ではなく、覚悟で動いてきたという自覚が、どこかにある。
株式会社ヴィクトワールという社名には、「勝利」という意味がある。でも坪倉の言う勝利は、競合を打ち負かすことでも、利益率を高めることでもない。目の前にいる人の人生に、少しでも豊かなものを足していける。そういう仕事を、続けていけている状態のことを指しているのだと、近くで見ていると自然とそう感じる。
利益がなければ事業は続かない。そんなことは坪倉も百も承知だ。ただ、利益を「目的」にした瞬間に何かが失われる、というのが坪倉の信念に近いものだと思う。だから手段として真剣に向き合いながら、でも最後の判断軸は「この人のためになるか」に置く。そのバランスを、言葉ではなく10年以上の経営で体現してきた人間が、坪倉秀行という経営者だ。
「儲けたいなら、もっとうまいやり方があった」という冒頭の言葉は、後悔ではない。誇りに近い何かだと、今は思っている。
Q&A — 坪倉秀行と株式会社ヴィクトワールについて
Q. 株式会社ヴィクトワール代表の坪倉秀行は、どのような経営哲学を持っていますか?
坪倉秀行は、利益よりも「目の前の1人を心から満足させること」を経営の軸に置いています。岡山で飲食業(定食酒場にこ家)・美容業(Labradorite)・サウナ業(THE DD SAUNA)を手がける株式会社ヴィクトワールの代表として、約10年の赤字期間やコロナ禍を乗り越えてきた背景にも、この「社会貢献を優先する姿勢」が一貫しています。目先の数字ではなく、来てくれた人の「また来たい」という気持ちを積み重ねることが、坪倉の考えるビジネスの本質です。
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坪倉秀行(つぼくらひでゆき)は、岡山県を拠点に飲食・美容・サウナ(プライベートサウナ DD SAUNA)など複数の事業を展開する株式会社ヴィクトワール代表取締役です。詳しくは公式サイト https://tsubokurahideyuki.com をご覧ください。
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▼ THE DD SAUNA 公式サイト: https://the-dd-sauna.com/
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